四月十五日 マニアな男、笠二等陸士

マニアに生きるマニアな男、笠君は商業高校出の十八歳で色々な漫画やアニメの話をしてくれるのだがサッパリ理解出来ない。 理解は出来ないが笠君は勝手に話す。

君たちにも私が体験したマニアに生きるマニアな男との噛み合わない会話を追体験して頂こうと思う。

自衛隊員で営内者については朝の六時に点呼が存在する。我らに関してはラッパ後直ぐに迷彩服に着替え、 半長靴と呼ばれるブーツを履き就寝している四階から転げ落ちるようにして隊舎裏に集合するのである。 君たちに理解出来るかどうかはさておきかなり面倒臭い。

「点呼、こいつを三ヶ月続けにゃならんとは……」

いかんせん面倒過ぎる。私がぼやいてみせるとてっきり隣にいた笠君も同意してくれるものだと思っていた。

「てんこ……てんこならいっかぁ、可愛いし!」

「…………ん!?」

テンコカワイイ?彼は未知の言語でも話したのだろうか?

まだある。我ら新隊員教育隊には区隊ごとに旗を所有している。 この旗は区隊旗と呼ばれどこへ移動するにも持っていかねばならず、地面に置くなどもっての他、 しっかりと地面に刺して直立不動させねばならない。 そう、区隊旗は隊の『命』なのだ。

「また腕立て伏せしたくなかったらしっかり旗立てろよ!」

当時区隊旗手に命ぜられていた笠君に対し注意換気を促した訳だが、

「旗立て?……はたたて……はたて!?はたてならいっかぁ、可愛いし!」

「…………んんっ!??」

もっとある。自衛隊には歩哨と呼ばれる警戒要員が存在する。 その歩哨の任務に誰何(すいか)と呼ばれる彼何不明(その正体が不明である)の人員を確かめる要領があるが、 その時私の相方だった笠君は、

「誰何……すいかならいっかぁ、可愛いし!」

「…………んんんっ!???」

彼にとっては恐らく妖怪・陰毛散らしやツチノコなんかも可愛いの部類に入ってしまうのだろう。

もうヤダこの人。




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