入部 その11
「あー、こりぁ酷いな」
週末、うちに遊びに来た淳はラケットを見るなりいきなり駄目だししやがった。
「ラバー(ラケットのボールを打つゴムの部分)が完全に死んじまってる」
そして、そう言うなり俺を連れ出して駅に向かい、中央街へ行く電車に飛び乗った。
「物置に半年以上放置!? マジで有り得ないね」
休日の昼間ということもあってか電車内はかなり空いており、俺たちは難なく席に着くことが出来た。
「うるせーな……ってか俺らは今どこに向かってんだ?」
ラバーを変えに行こうと言うのは大体分かる。しかし何故態々街まで出張ってくる必要があるのか。 スポーツ用品店なら地元にだってある。
「佑樹、卓球のタマチ知らないの?」
さも当たり前のように言う惇だがそんなもの見たことも聞いたこともない。
「何だよ、卓球のタマチって?」
惇はゴホン、と咳払いをする。
「単なる卓球用品店」
思ったより真面目な答えが返ってきた。突っ込みどころに困る。
「卓球少年、少女の社交場みたいなもんだよ」
「……大人になったらどうするんだ?」
「卓球を愛するものは誰しも少年、少女の心を忘れないものだぜ」
さっきのは撤回した方が良さそうだ。こいつは突っ込みどころ満載だ。 そうこうしているうちに中央駅に到着する。
駅の東口を出て大通りを少し外れ路地裏に入るとすぐに『卓球のタマチ』に着いた。 通りに面しているウィンドウに卓球選手のポスターが貼られていたのですぐに分かった。 駅から徒歩五分くらいで、何と言うか便利そうである。 それでも俺にしてみれば態々街中に赴くよりも地元のスポーツ用品店に向かった方がよっぽど 手っ取り早いと思えてならない。俺のどうも煮え切らない態度を察してか、淳がぼやいた。
「餅は餅屋ですぜ? 旦那」
自動ドアが唸りながら開き、淳に続いて俺も中へと足を踏み入れる。
店内には多くの卓球用具、ラケット、ラバーは勿論、ラケットケース、ラバーの手入れ道具、 保護フィルム、ユニフォーム、シューズまで幅広く置いてあった。 確かに、一般のスポーツ用品店にはないバリエーションだ。
「いらっしゃい」
店の奥にいる中年の女性がしかめっ面で対応してきた。淳は特に会釈する訳でもなく店内を物色し始める。
「お前ってドライブ型だったっけ?」
ドライブ型(ドライブ主戦型とも)とは卓球におけるプレースタイルの一つで、
ボールに強い上回転をかけて攻撃する、最もポピュラーなタイプの戦型と言えるだろう。 他には強打に重点を置く前陣速攻型や、守り重視のカット主戦型(カットマンとも)、 変則的な異質攻撃型などがある。
「あぁ、そうだよ」
淳はそれを聞くとコンビニで売られる雑誌のように陳列されたラバーの中から素早く二枚を選び、 俺の手からラケットケースをひったくってレジに持って行った。
「おばちゃん、これ貼って」
「ちょ、おま……」
おばちゃんは不味いだろう。