四月八日 インフルエンザとメシ上げ その2

我ら第一班インフルエンザにかからなかったのは幸いだったが、そうなったらそうなったで今度は『メシ上げ』という これまた厄介な任務が発生してしまう。メシ上げとは、インフルエンザにかかり、 隔離隊舎に入れられた新隊員たちに食事を持っていくというものであったが、 これはただでさえ時間のない新隊員にとっては泣きっ面に蜂以外の何物でもなかった。

さらに、隔離隊舎は駐屯地の隅に存在し、戦時中に出来たのではないかと疑いたくなるほど、おんぼろの木造二階建てであり、 幽霊屋敷と呼ばれさえすれば大殊勲のようなくだびれようであった為、 非常に小心者であった私にとっては荷が重すぎたようである。

しかし実際のところ私を苦しめたのはオイルショックでもインフルエンザでもメシ上げでもない。 ラッパである。ラッパは幾種類か存在し昼食や稼業開始、稼業終了、起床、就寝などの時を告げる為流されているが、 中でも一番に恐ろしいのは消灯時に流れる就寝ラッパであり、そのトロイメライのようなメロディは私に、

『自衛官っていう選択は本当に正解かな?』

『今の生活に満足しているのかい?』

と囁いてきた。恐怖のあまりに耳を塞ぎ布団を深々と被り床に着いた私であったが、おかまいなしにラッパは鳴り響く。 君たちもラッパ恐怖症になりたくなければ耳栓の購入を強くお勧めする。

ともかく、上手く眠りにつくことの出来ない私はその大してないであろう体力と精神をさらに 磨り減らすことになってしまったのであった。




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