四月十日 教育開始

とうとう教育が開始されることになった。班長を含む助教たちの目はそれまでのぽぽぽ〜ん的笑顔を一変させ、 ギラギラと怪しい輝きを見せており、うっかりしていたら視線だけで殺されてしまうのではないかという想像さえしてしまった。

午前中は制服を着て式典が行われ、午後には貸与された迷彩服に着替えて小銃の貸与式が催された。 小銃の実質的な重さは凡そ4s程度であったが、それ以外にも『人を殺す為の道具』という概念が加わり、 ただでさえ重い鉄の塊の重量を一層重くしていたかに思えた。

ちなみに陸上自衛隊の主力小銃は現在八九式小銃、通称『バディ』であるが、 我ら第八中隊に関しては旧式の六四式小銃があてがわれた。聞くところによれば、 世界一部品数の多い小銃だとかそうでないとか……

教育には小銃の分解結合があるので正直粗忽者の私ではしっかりこなせるのか甚だ疑問であった。 同じく手先の器用さに一抹の不安を禁じ得なかった佐原氏も不安に思っていたらしい。

ちなみに、『バディ』とは自衛隊に於いて相方や相棒を意味し、しょっちゅうペア行動する教育隊では頻繁に使われる言葉で、 小銃は兵士の相棒、という意味でそう銘々されたのではないかという想像をし、自衛隊上層部のネーミングセンス の著しい欠落に絶望を禁じ得なかった。




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