まえがき その2

私は東北の仙台にて産まれ、仙台にて育った生粋の仙台っ子である。 専門学校にて高校時代最も平均評定の高かった英語を専攻していたが、 大したやる気も気概もなくただただ毎日をぐうたら自堕落に過ごしていた訳で、 そんな私が就職活動に難航したのは言うまでもないだろう。

現代日本にて大きな社会問題となっているのは第一に、ヒートアイランド現象、 第二に夫婦のマンネリ化、そして第三には就職難であると私は思う。

かく言う私の姉も専門学校を出てから三ヶ月、就職がなかなか決まらずアルバイトで生計を立てていた。 私は贅沢は言わない謙虚な人間であった。その為、就職活動の『一環』として自衛隊も受験する気でいた。 何も馬鹿にしている訳ではない。防人として国防の一翼を担うのも悪くないと思ってこそである。

その旨を長年私を支えてきてくれた両親に話すと、

「あんたじゃ無理」

と一蹴された。「お前のようにかくも軟弱であまのじゃくなド阿呆に、あんな厳しい職業は絶対に不可能だ」、 とまでは言わなかったが明らかにそう言いたげな表情を浮かべていた。 しかしそれでも就職しないよりはマシだと考えたのか自衛隊の試験に関してアドバイスを私に託した。

「足し算さえ出来れば合格出来る」

この助言を信じ何の参考書も開かぬまま試験に望んだ私は筋金入りの阿呆であった。 尚足し算さえ出来れば受かるという時代も少し前はあったようだが今となっては昔の話、 マンモスですら生き残れない就職氷河期にそんなに容易く仕事にありつけるはずがない。

私は筋金入りの阿呆だった為、試験の用紙を開いて仰天した。

「……に、二次関数だとッ!?」

サイン・コサイン・タンジェントとか、y=x2−3だとか、 そんな複雑怪奇な問題は高校の卒業時に全て段ボール箱に仕舞い込み、 友人達の間で『混沌(カオス)』と呼ばれ畏れられているクローゼットの中に追放して久しい。 よって四択問題であった試験を己の勘と天命に任せたのは言うまでもない。

君たちも将来入隊を考えているのであればせめて参考書くらいは購入しておくといい。




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