四月十六日 引率外出 その2

京阪電車に揺られる私は読書をして時間を潰していた。班員とはあまり会話はしないようにしていた。

出来るだけ浅く、人間関係なんぞ浅いに越したことはないのだ。ちなみに私は浅漬けが大好きだが今の話には全く関係ない。

「森川、何の本を読んでいるんだ?」

班長はメンバーの結束を高める為に私を会話に引き入れるべく暗躍した。 だが地雷を踏んだことを彼は身を持って知ることになる。

「……自衛隊員が恋人に会う為に脱柵する話です」

ちなみに私の読んでいるこの本『クジラの彼(有川浩著)』によれば自衛隊において 駐屯地から不法に抜け出すことを『脱走』という表現はしないようで、 その経緯に関しては不明であるが『脱柵』と言うらしい。なんというかいよいよ囚人のような扱いになってきたようである。

「そ、そんなに嫌いか?自衛隊……」

石山班長は苦笑いしたが内心ドキリとしたに違いない。 班員が脱柵して駐屯地を脱け出そうものならば犯人は勿論のこと班長も処分されるのだ。班長は大いに焦っただろう。

電車を三条河原町駅で降りた私はおもむろに集合求人誌を手に取ってみた。 そういえば私は自衛隊に入る前は結婚式場でアルバイトをしていた。冠婚葬祭なら十分勤まるだろう。

「……やはり京都は都会ですね。仙台よりも自給が高い」

「頼むから辞めてくれ!」

石山班長がこれ程焦っていたのは後にも先にもこの時くらいである。




もくじへ移動/ 次のページへ

TOPに戻る