四月十七日 中隊長

中隊長とは、

部隊は小さい方から順に分隊(班)、小隊(区隊)、中隊、大隊〜という風になっている。 三個分隊で一個小隊、三個小隊で一個中隊というのがセオリーらしいが、 新隊員教育隊に関しては四個区隊で第八中隊を構成していた。

その中隊の長が中隊長、秋山三佐である。 彼は曹学(一班曹候補学生)と呼ばれる二年で陸曹に昇進出来る制度で入隊し、 部内選抜にて幹部に上がった真の意味でのエリート、いわゆる叩き上げである訳だが、 その眼鏡のレンズを通して見る中隊長殿の瞳はただただ優しさばかりを称えており、滲み出る仁徳を隠しきれていない為 彼の周りには笑顔が絶えないのであった。

自衛隊では稼業の初めと終わりに国歌『君が代』が流れるが、 この時自衛隊員たちは昇り降りする国旗が見える場合は敬礼、 見えない場合は直立不動の姿勢を保つのであるが国旗が昇降する午前八時十五分と午後五時には全ての駐屯地、 全ての自衛隊員たちが国旗に敬礼し国歌に敬礼もしくは整体するのである。

座学と呼ばれる講義を受ける時は室内教場にて稼業を迎える為国歌に整体することになる。 八時十五分を時計の針が指し示し、併せて部内放送で国歌が流れる。

「気を付けッ!!」

中隊長殿の号令で第八共通教育中隊一同は不動の姿勢を取る。 そして最前列で中隊長殿の背中を見ていた私は驚いたのである。 その背筋は天井から糸で張られたように一片の迷いもなく直立し、我ら中隊全員を背負い、最後の一人までもを 導く強く、鋭い決意さえ感じてしまった。とても五十を少し前にした中年男性とは思えなかった。 そして私は不動の姿勢を取る中隊長殿の背中をゆっくりと昇る日章旗を垣間見た。

私は思わず敬礼しかけてしまった。

国歌が鳴り止み中隊長殿は回れ右をしてこちらに向き直る。私はこの方に昇る日の丸、 つまりは今日の日本を見てしまったのだ。己が部隊は無論のことその背中で今日の日本の平和を願い、担う中隊長殿。 この方は素晴らしい人だ。この人に着いて行けば間違いない。

そう直感した。

しかし、いかんせん自衛隊というチョイスは如何なものであったろうか。




もくじへ移動/ 次のページへ

TOPに戻る