四月二十四日 洗濯物遺棄改め洗濯物殺害事件

自衛官たるもの身の回りのことは自らで整理しなければならない。洗濯もまたしかりである。 尚人生二十と余年一度も洗濯機に触れたこともなかった温室育ちの私に洗濯というものは高いハードル であったのは言うまでもないだろう。

そして大津駐屯地に配備されていたのは『二槽式洗濯機(洗濯槽と脱水槽の二つに分かれた洗濯機、 非常にタフ)』の生き残りたちであった。

「こんなところで絶滅危惧種に対面出来るとはな……」

班員たちは洗濯機を前にごくりと生唾を飲んだが洗濯機の種類など知らない私には一層式だろうが二層式だろうが関係なかった。 そしてまともに操作法を聞かなかった私は洗濯物を私物のバケツに悉く突っ込み、悉く放棄した。

そして着隊から三週間程が経った頃である。 近所の隊員から異臭がするとの通報を受けて招かれたのは自分のベッドの下だった。 どうも異臭の権化は洗濯物のバケツらしく何やら異様な気配が感じられた。

「……こ、これは!?」

かなり危険度が高いことを察知して予め皮手袋をはめ、ことに臨んだ私だったが蓋を開けてさらに驚いた。 中には三週間溜めに溜め続けた洗濯物たちが新たな物質を生成していたのである。

「だッ、暗黒物質(ダークマター)が出来ている!!?」

側にいた笠君が絶叫した。他の班員たちも騒ぎを聞き付けてやってきたが一同に口と鼻を押さえて表情を険しくした。

「森川、キノコ栽培に乗り出したのか!?」

「公務員は副業禁止だぞ?」

「そこは問題じゃないだろう!これは洗濯物遺棄事件だ!!」

「何を言っている!?よく見ろ、明らかな殺意、洗濯物遺棄から洗濯物殺害事件に切り替えて捜査を進める必要があるな」

「てか犯人森川だよね?」


「……むしゃくしゃしてやった」

森川容疑者は警務隊の取り調べに対し次のように述べ、云々。




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