四月二十五日 区隊旗と西二士の脱走 その1
先にも述べたが区隊旗は区隊の命である。これなくして第三区隊はありえない。 これを旗手が掌握し部隊の先頭で高々と掲げ行進するのである。
ちょうど西二士が旗手の時であった。あろうことか彼は区隊旗を忘れてしまったのである。 因みに階級もニシ、名字もニシなので彼はそれだけでつまりニシニシ、 誰よりも先に名前を覚えられた彼は区隊の人気者であった。
「おい西、区隊旗どうしたんや?」
山本班長は鋭い視線を西二士にぶつけた、と言うより鋭い視線で突き刺した。
「……」
「まさか忘れた言うんちゃうやろなぁッ!!?」
「……」
「半ば、右向け〜……右ッ!!」
『半ば右向け右』恐らく全ての自衛隊員はこの基本教練が一番嫌いである。何故ならこの後に待っているのは、
「その場に腕立て伏せの姿勢を取れ!!」
自衛隊特有の罰則・指導というやつだ。それに区隊の命である区隊旗を忘れたとなれば今回はかなり厳しいことが見てとれる。 しかし何故か当の本人西二士だけは棒立ちのままであった。