五月十五日 脇田班長(情報科暗殺部隊)

近年、新しく自衛隊にできた部隊。それが『情報科』である。

他部隊に比べ、その全貌は明らかになっておらず、何をやっているのか、未だ持って不明な部隊でもある。 某国に乗り込み、スパイ活動、要人暗殺等を行っているのではないかと吹聴する者もいたが、 無論その隊員については謎の失踪を遂げることになる。三区隊三班班長を務める、脇田班長の部隊は『通信科』であったが、 そのひょうきんな態度と不気味で慇懃な笑みから実は情報科暗殺部隊の出身なのではないかという噂が 数々の隊員たちによってまことしやかに噂されていた。


これは私と玉川氏との間でなされた脇田班長を巡る会話である。

「あの目は確実に二、三人殺ってきた目だ。違いない」

「確かにあの人が本気を出せば山本班長や石山班長なんて即死でしょうね」

「それを知ってしまったからにはもしかしたら俺たちは始末されるかもしれないな……」

そう、玉川氏が冗談交じりに笑ってのけた矢先の事である。

いきなり班長居室から脇田班長が飛び出してきて、廊下を疾走し、こちらに向かってきた。

「「こ、殺されるッ!!!」」

いい男が二人して仰天し、石のように固まってしまい、最早成す術はないかと思われた。 それでも脇田班長は全力疾走でこちらに向かってくる。

よもや万事休すかと死を覚悟した訳であるが脇田班長はそのまま我々に見向きもせず走り過ぎ、 一目散にトイレに入って行った。もしかしたら余程我慢していたのかもしれない。

「……命拾いした……」

玉川氏と私は、『口は災いのもと』ということわざを何度も口ずさみ、 これからは謙虚に生きることを決意しそそくさと居室に戻っていくのであった。




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