五月十六日 戦闘訓練

ゴールデン・ウィークも終わり、しばらくするとついに戦闘訓練が始まった。 この訓練は前期教育の総決算と言っても良いだろう。

内容は小銃を構えて低姿勢で前進し敵の銃声がしたらすかさずその場に伏せる。 そして土嚢の積み上げられている地点まで匍匐前進し今度はペアと交互に前進を試みる。 中間地点まで到達したらそこから一気に突撃して機関銃のある敵陣地を一網打尽にする、というものだ。

何とも旧陸軍臭い、時代遅れの訓練だろうか。

私のやる気とは逆に班長助教たちのやる気はここにきて高まり、 教育の最後までこのテンションで突っ走るのではないかと悪い想像をした。

「そもそも機関銃相手に生身の人間で立ち向かうなんて合理性に欠けますね」

そう眼鏡をかけた自衛隊マニアが言い放った。すると脇田班長がニッコリと歪な笑みを称えてこう言った。


「殺られる前に殺るだけだよ……」


「……」

その台詞に隊員全員が息を飲んだ。幾つもの死線を潜り抜けてきた情報科の暗殺部隊だからこそ言える台詞、 その殺気だけで凡人二、三人は殺せるだろう。

それ以降我々は文句を言うのを一切止め戦闘訓練に臨んだ。




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