五月二十日 自衛官神話大系 その6
「森川君、会計科へ行ってしまったか……」
中隊長殿は残念至極、という表情を浮かべており、 今でも私が会計科でなく別の職種に行くことを望んでいる風さえ見せる。今までの夢とは何かが違った。
「何かマズかったですか?」
「マズい、と言うか……君はもっと別な職種が向いている気がしたんだがなぁ……」
「別な、職種ですか?」
まさか。そんな筈はない。君たちも今までの夢の話で私がスバラシイ未来を掴めると思えたか?いやない。 どう考えても悲惨で残念な未来しか出来上がらないに決まっている。 と言うか私の未来を悲惨にしてるのは中隊長殿自身だったではないか。
「君は普通科が向いてると思うんだがね……体力もそれなりにあるし、君、小銃の射撃や分解結合が大好きだろう?」
「そ、それは……」
痛い所を突かれた。 確かに私は男子である以上機械やメカに似通った小銃を弄くりまわすのが好きであり、また得意分野でもあった。 ちなみに自慢話になるが小銃の分解結合の連度判定で私は隊で一番の成績であった。 小銃を使っての射撃も面白いものでその時の気分や身体の状態で点数が驚くぐらいに上下するのである。 自分の悪い点を潰して、より高い点数を目指すというのは中々に痛快だった筈だ。
「まぁ、なってしまったものは仕方がない。会計科で頑張りたまえ……」
中隊長殿は残念そうな表情を崩さずに私の元から去っていった。
後に残されたのは複雑な感情の渦だけだった。
「……」
眠りから覚めゆっくりと目を開けて起き上がる。
どうすれば良いのだ?何をすれば良い!?
そもそも両親の反対を押し切ってまで自衛隊に入隊したことにどれほどの価値があった? たったの二日で後悔渦巻く航海に出てしまったではないか? そんな私に何が出来る?毎日辛い想いをしてまでここに居続ける理由は自分に存在するのか? 何がしたくて自衛隊なんぞに入った?思えば私は大した度胸も気概もなく自衛隊にふわふわと入隊し、 直ぐ様自分の選択を悔いた。そして自分の境遇を嘆き、それを呪いさえした。 さらには毎日不貞腐れ、休日は仲間とは他所に営内に引きこもってしんみりとしていた。
私は人生を楽しむ術を完全に忘れていたのだ。
私は何をしたかったのだろうか?