五月二十日自衛官神話大系 その7
その夜は私を上手く眠らせてくれなかった。何度も寝返りを打った。 その度に私の心はあっちに行ったりこっちに行ったりした。
「―――どうすれば良い、どうすれば良いのだ……?」
消灯後は基本的に携帯を携帯をいじるのもジョニーをいじるのも禁止されている。 だがこの晩、たまたま携帯はポッケの中に入っており、 気紛れに私はジョニーウォーカーを飲み干した友人にメールを送ってやることにした。
「私はどうすれば良いのだろうか?」
友人は直ぐに返事をしてきた。
「大事なのは何をすべきか、ではない。何をしたいか、だ。お前は何をしたいんだ? 辛い状態でこんな精神論聞いても無駄かもしれないが、自分の心に耳を傾けてやれるのは自分だけなんだぜ?」
後にして思えば限りなくくさい、そしてくだらない返答だった。 だが、その時の私は涙を流した。こんな台詞で涙を流すなんて私はどれだけ弱っていたのだろうか? 誰に見られている訳でもないが私はそっぽを向いた。そう、神にも仏にも涙を見せぬように。
潤んだ目に写ったのは大津に来る際立ち寄ったホテルグランヴィアで拝借した京都の観光マップだった。 京都で、小説の舞台になった場所を訪れるのはどうだろうか?聖地巡りというやつだ。 木屋町先斗町を縦横無尽に駆け巡りたい。 怠惰に過ごした学生生活では成し得なかったプラチナブロンドの美女との逢い引きも良い。 その為にはもっと英語を勉強しなければならない。もっと多くを学びたい。 カウンセラーの勉強をして私のような迷える子羊を導くのも悪くない。 折角滋賀県に来たのだ。琵琶湖走に参加し、スーパー琵琶湖賞をとるのも良い。 普通科に行き、鍛えに鍛えた筋肉を披露し、世の女性という女性を魅了したって良い。
束縛された生活で浮き彫りになった私の願望は常に身近にあってかけがえのないものだった。
「まだ間に合うだろうか?」
震える手で私はキーを叩いた。
「愚問だ、歩いては人生勿体無い。立ち止まった分走れ、思いっきり突っ走りたまえ」
メールが届くなり私の身体の奥の方からエネルギーのような何かが湧いてきた。
「きたあぁぁぁッ!!!」
この後石山班長にこってり絞られたのは言うまでもない。