六月二日 自衛官の義務
自衛官には六つの義務が存在することを諸君らはご存知だろうか?
『上官の命令に服従する義務』
『品位を保つ義務』
『指定場所に居住する義務』
『秘密を守る義務』
『職務に専念する義務』
『職務随行の義務』
この六つである。要は命令を守れ、寮に住め、結婚したら出てけ、仕事しろ、仕事以外のことにうつつを抜かすな、 秘密は守れ、そして自衛官たるもの常に高潔であれ。と言うわけである。
『品位を保つ義務』、六つのうち何一つとして守れていない私であったが特にこれは守れていなかった。 三ヶ月の前期教育訓練も後半になると戦闘訓練が勤務の大半を占め、稼業後も被服の手入れ等に大くの時間を割かれてしまい、 風呂はおろか食事すらも満足に取ることが出来なくなるのが実際のところであった。
その日、私は既に三日間風呂に入っておらず最早自衛官と言うよりも人間としての最低限の品位さえも失いつつあった。
「も、もう駄目だ!」
例によって例のごとく、疲れ果てて泥まみれの身体をなんとか居室まで運んだ私たちであったが、 風呂と食事の後には訓練で同じく泥まみれにしてしまった小銃の整備、 その後は迷彩服の洗濯、アイロンがけ、半長靴磨きが待ち構えている。どう考えても時間が足りない。
皆限界だった。
その時、森川は言った。
「みんな、風呂に行け」
森川は一人居室に残った……プロジェクト×
「はいはい、森川さん、あんたかれこれ三日間も風呂に入ってないでしょ?」
「お前はそんなに人間を辞めたいのか!?」
「とり押さえろ!引きずってでも連れて行くんだッ!!」
「えぇい!鬱陶しいわ!放せ!!……さては私を研究所に売る気だな!?この裏切り者どもめがッ!!!」
今にして思えば私は彼らの善行により辛うじて人間、もとい自衛官であることを保つことが出来たのであった。