六月五日 琵琶湖走

琵琶湖走とは大津駐屯地にいる隊員の体力向上を図り企画された走り込みのプログラムである。

琵琶湖一周約235kmで琵琶湖賞、大津駐屯地の主教育部隊、第315・316中隊に準え各々の数字の距離数で中隊長賞、 尚第8中隊に関しては318kmで中隊長賞、琵琶湖二周約470kmで大隊長賞、最後に琵琶湖三周約705kmでスーパー琵琶湖賞となっており スーパー琵琶湖賞の賞品であるメダルは豪華な金メダルであった。

流石に大津駐屯地に滞在する三ヶ月ではスーパー琵琶湖賞は難しい。 だが琵琶湖賞くらいなら私にでも達成出来るのではないだろうか?外出も億劫な訳であるから休日は走ろう、そう考えた。

「見たまえ外崎君、鷲があんなに近くを飛んでいるではないか。あれはきっとさる北の国が送り込んだスパイに違いない」

「そんな大袈裟な……」

外崎氏は苦笑した。私と外崎氏は休日を琵琶湖走にあて、共に爽やかな汗を流していた。

「琵琶湖が臭いな。何故だか解るかい外崎君?」

「いや、解らないですね」

「昨日雨が降ったろう、温度差でバクテリアが死滅したのだよ。その臭いだ」

知識をひけらかすのは楽しいし黙って話を聞く外崎氏は利発な青年であることが伺える。 世の若者が皆彼のような好青年であれば世界はなんと平和なことか。

「ほら見たまえ、喫煙所でゴルフの素振りをしている業務隊の連中を。あれで給料が発生しているんだ。 公務員とはかくも役得な仕事だな、サボっても仕事が出来なくても給料は変わらん」

「森川さんってよく周りが見えてますよね、視野が広いと言うか」

外崎氏は私を賛美する声を上げたがここ最近の私を鑑みるに、 その賛美を受けるには自分自身色々と足りていなかったと言うことに思い至る。

「……違うな外崎君。周りしか、見えていないんだ」

周りばかりに気を取られ自分のことに気付いてやることが出来なかった。 自分のことすら満足にこなせていないのに他人を守ってやれるか?いいや無理であろう。 だが私は最悪ではなかった。私は気付くことが出来たし。きっと変われる。いや変わってみせる。 残りの教育は立ち止まった分全力疾走してみせる。


そうして私たちは何処までも走って行くのであった。




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