六月 十七日 前期教育の終わり

戦闘訓練錬度判定が終了を迎えた。

これが何を意味するか、諸君らは解るだろうか?

要すれば、前期教育の終了であり修了である。思えばこの三ヶ月間長いようで短かった。

思っていることは教育の始まりの時とさして変わっていないが、 この三ヶ月は薄い牛乳をさらに水で薄めたような私の人生の中で もっとも色と味を含んだ三か月となったに違いない。 頭で妄想を並べるだけでなく直に己の身体で何かを体験してみるというのは、 一味どころか二味も三味も違うのだろう。同期とは仲間であり、 友人であり兄弟のような存在で、班長たちは良い兄貴分、 区隊長や中隊長を父としてそれは大きな家族のようでもあった。 かけがえのない、と最初に述べたが、その一言で終わらせてしまってはあまりにも味気なくあまりにも勿体無い、 最早言葉などで言い表すのは無粋かとも思われた。

恐らく貧弱な私のボキャブラリーでは一生かかってもそれを表現することは無理だろう。 しかし、これでいい、これでいいのだ。もしも、自衛隊に入隊したことが本当に間違いだったとしても、 ここで出会った人々や、学んだこと、培ったものはきっと正解なんだと思う。 少なからず外れてはいない筈だ。

教育の最終日、三区隊は隊員クラブで宴会を催した。 教育中は飲酒、それに運転は禁止されている。されてはいるが上官が催すことになったので、 我々は上官の命令には従い、宴会に参加しなければならないのであった。




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