六月二十日 大掃除

硫黄島の英雄、栗林中将閣下はこう言われた。

「生きて祖国の地を踏めること無きものと覚悟せよ!!」

無論今日の自衛隊に於いてそのような覚悟は微塵も必要ない訳であるが、これだけは言いたい。

「新隊員教育隊に於いて代休など無きものと覚悟せよ!!」

先ほど同期たちとの出会いは正解だなどと言っていた私であるが、 自衛隊という選択まで正解にしたつもりはない。少なくとも当たりでは無かったと思う。

教育が修了し当初八日間を予定していた修了休暇であるが、 営内、隊舎、居室、教場等の清掃により無残にも最初の三日間が潰れることになった。 そもそもこれらの休みは土曜日日曜日を惜しんで訓練に励んだ我々に対する、 ご褒美のようなものであるからしっかり休まなければならない。

なのに、これはどうしたことか。

責任者は何処……

しかし、ここで愚痴ばかり並べても仕方がない。我ながら骨のある人間に育ったようである。

骨のあるついでに優しい私は諸君らに自衛隊における掃除の極意を教授したいと思う。

百円ショップでも自衛隊の購買施設でも購入可能な、『激落ち様』。 これは恐るべき破壊力を持った掃除道具である。 洗面器に付着した汚れ、水垢、その一切を無に帰し、取りつけられた時の新品の状態まで戻すことが可能である。 更にタイルに付着した靴墨、汚れ等を一掃しその上からのワックス掛けを円滑にすること請け合いである。 ポリシア掛けは自衛隊の特殊技能の『MOS(Military Occupational Spesiality)』に含まれているらしく、 これがどれだけうまく掛けられるかによって出世の速度が大きく変わってくるとまで噂されている。

もし諸君らが自衛隊にて立身出世を図るのであれば、是非ともコンビニのバイトなどで この技術を培うべきであろう。




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