四月一日 大津駐屯地着隊 その2

私を絶望させる要素は何もiPod没収だけではない。

〇六〇〇……起床

〇六一五……日朝点呼

〇六三〇〜〇七二〇……朝食

〇八一五〜……国旗掲揚・稼業開始

一二〇〇〜一三〇〇……昼食

一七〇〇……国旗降下・稼業終了

一七三〇〜一八三〇……夕食

一九三〇〜二〇三〇……入浴

二一四〇……日夕点呼

二二〇〇……消灯

これは大津駐屯地に着隊が決まった際に私の担当であった 自衛隊広報官の方が渡してくれた資料に記載されていたものだ。 尚この時私はiPodの持ち込みは大丈夫と大津駐屯地業務隊に 電話までして確認していたのであるが見事に掌を反された訳だ。 さらにこのスケジュール表に記載されていないのを良いことに〇七一五からは間稽古と称して訓練が行われ、 小銃を使う場合はさらにその二十分前には武器庫前に集合し、整列しなければならなかった。 そして稼業外に関しても稼業中に追いつかなかった訓練や整備等度々訓練が入れられた。

「間稽古の間は悪魔の魔!稼業外の外は予想外の外!」

余談であるが自衛隊広報官は私のような何も知らないいたいけな好青年を騙す為の 「ニッコリ詐欺」と呼ばれる自衛隊特有の技能、通称:MOSSを有しており、 その為の教育機関まで存在すると言うのが専らの噂らしく、 その話を私にこっそり教えてくれた隊員については翌日謎の失踪を遂げた。

話は反れたが、当然のこと私は抗議した。こんなのはおかしい。 〇八一五から稼業開始の為四十五分余分に仕事をしてしまうがその辺は私の広い懐でカバーしてやろうと思っていた。 だがそれに加えてとなればいくら心の広い私と言えど我慢ならない。 さらに自衛隊員たるもの五分前集合十分前行動を心掛けよと命ぜられ、 細かいスケジュールが組まれる度に時間を圧迫した。

まだある。資料に記載されている食事の時間は約一時間であるが勿論これも嘘っぱちであった。 十分前行動と混雑を避ける為の食事時間分担により食事時間は十分から十五分しか取れなかったのだ。 さらに私は会話を楽しみながら食事をする人間で、 小一時間近く掛かることも珍しくなかったので特にこれに関しては強く抗議した。抗議した結果は次の通りである。

「自衛隊は節度が大事なんや!」

全く意味が解らない。節度とは行き過ぎない適当な程度、 と電子辞書に載っていたが間稽古や食事時間との関連性は未だに不明である。

食事を摂りきれない私は泣く泣く残飯を回転する強固な歯を持ち何でもかんでも際限なく食べてしまう怪物 『ディスポーザシンク』に投げ入れることを余儀なくされた。

兎にも角にも色々理不尽な要素が重なりに重なり私は入隊二日目にして早速入ったことを大いに後悔した。 この物語の題名は『二日で辞めたくなる自衛隊』に直した方が良いかもしれない。 さらに入隊した当日、『躾』に関する教育がなされたのであるが、身を美しくすると書いて躾、 なんと恐ろしい字であろうか。生まれて二十年間自堕落極まる生活を送ってきた私がその字を見たとき 卒倒しそうになったのは言うまでもない事実で、その内容にはトイレの使用方法から 掃除の要領、常に公平、正直であれ、仲間を見捨てるな等々の精神論まで事細かに書かれていた。モウヤメタイ。




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