四月一日 大津駐屯地着隊 その3

さて、いかに自衛隊が理不尽な組織であるかをご理解頂けたであろうか?

それではこれ以上読者の方々を私の愚痴に延々と付き合わせるのも失礼なので早速物語を始めたい。

大津駐屯地一〇九教育大隊第八中隊三区隊一班、それが私の配属された部隊である。 私が居室に案内された時既に他の同期は着隊しており居室内で各々の行動をとっていた。

「よろしくお願いします」

私が深々と低頭した相手はこれから三ヶ月お世話になるであろうベッドであった。 この儀式を怠れば向こう半年間は安眠が許されないと母に幼い頃より教え込まされて今に至る。

「何かの宗教ですかね?」

と脇で同期であろう人間たちがゴチャゴチャとぬかしていたが気にはしない。 挨拶を怠る者に安眠は決して訪れない。蛮勇に結果は訪れない。栄光は是非とも私を訪れたまえ。 ベッドへの挨拶を終え、私は相部屋の同期たちに向き直った。

「森川新一郎です。三ヶ月間という短い時間ではありますがどうぞよろしくお願いします」

相部屋の面子は私を含め十一名、兄貴的存在、玉川氏。マニアに生きるマニアな男、笠君。 見た目は幹部っぽいオッサン、斎藤氏。真面目なんだけど物忘れが激しい、佐原。 高卒とは思えない好青年、外崎君。スリザリン三曹に近代麻雀を取り上げられた、後藤。 地元が一緒の最年長、阿部氏。面倒見が良いお母さん的存在、鈴木氏。体つきの良い西君。 女だったらうっかり惚れてしまいそうになるイケメン、三瓶氏の十人である。

同じ班のメンバーは実に不毛かつ個性的であり日々の自衛隊ライフを彩るのに余念は無さそうであった。 尚詳しい紹介は彼等とのエピソードを交えて語りたい。

ちなみに私たち新隊員の寝起きする居室には当初紹介されていた二段ベッドは無く、 寝相の大層悪い私は大いに安心した。これは新隊員教育隊としてはなかなか稀な話らしく、 震災による急な部隊の受け入れであったために、上曹教(上級陸曹教育隊)の隊舎を貸し切ったらしいのである。




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