入部 その1

桜は散り始め、段々と陽気もよくなってきたこの頃であるが、俺の気分は一足先に梅雨入りしていた。

「おぅ、佑樹。卓球しようぜ!?」

サザエさんの中島くんがカツオを草野球に誘うとき「イソノ、野球しようぜ?」 と言う。まさしくそれと同じノリだった。

中学来の友人である淳は休み時間になると毎度のように俺の机を訪れ、 卓球部への入部を勧めてきた。淳の大きな瞳が期待をはらんで潤う。

「いやだ」

高校に入学してからすでに三週間、俺は未だに入る部活を決めあぐねていた。 というのも中学三年間卓球部に所属していた俺には大した芸術の才能もなければ並外れた運動神経もなく、 高校で心機一転何か新しいことを始めるにしても何も手に付かないのが現状だったからである。

「そんなこと言って、どこも良いとこ無いんだろ? 卓球部にしろって!!」

「余計なお世話だ」

中学時代、一緒に卓球をしていた淳だが、実力は俺よりも上で、 最後の大会では地区予選を通過し、男子卓球部内で唯一県大会にまで駒を進めた。 さらに言えば俺から見ても結構な色男で、これがよく女子にモテるときた。

「つーかあのな、軽く迷惑だぜ。どこの押し売りだよお前は?」

「……い、一ヶ月だけでも!!」

「新聞の押し売りか!? うちは結構です!!」

漫才めいたやり取りは人目を引いた。

程なくして休み時間終了のチャイムが鳴り、俺は「あっちいけ」という風に手を振って淳を追い払った。 今回は大人しく自分の席に戻っていったが、きっと放課後になればまた卓球の話をしに来るのだろう。 俺は窓の外に見える水色で無機質な空に目をやり、授業の始まる前の教室にため息を溶かした。




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