入部 その3

せせらぎ高校の校舎は上から見るとHの形をしている。縦の棒は職員室や化学室、文化部の棟と クラス棟。まんなかの横棒は連絡通路になっている。 現在俺は部活見学のため文化部棟を回っている。いよいよもって入る部活を決めなければならない。

「吹奏楽、茶道……美術に漫画研究部、いろいろあるんだな」

入学した後で気付いたことであるが、この『宮城県市立せせらぎ高等学校』は部活動が非常に盛んであり、 全国大会やインターハイに出場している部もちらほらとある。 それでいて学業の方も県内では中堅の学校よりも頭一つ抜けているため、 競争率がかなり高いのも至極当然のことだろう。 ろくに受験勉強をしなかった俺がこの高校に合格したのは奇跡に違いない。


卓球部はどうなんだろうな……

いくつかの部活動を見学した俺の目前をそんな些細な疑問が過ぎる。 せせらぎ高校卓球部のレベルがどんなものなのか全く興味がないかと言えばそれはきっと嘘になる。 しかしそれは気になるの域を出ないし、昔卓球をしてた人ならテレビで卓球の試合が流れていたらきっと 十人中八人くらいは気になってそれを観るだろう。その程度のものなんだ。

単なる興味本位であって断じて趣味ではない……なんだか言い訳がましくなってきた。


「あんた、何してんの?」

正面から、鋭い詰問が飛んできた。考え事をしながら歩くとどうしても俯きがちになってしまうようで、 俺は前方で仁王立ちして行く手を阻む女子が居ることに気が付かなかった。 初め、窓から受けた陽の光で顔には影ができてそれが誰なのか分らなかったが、 声には聞き覚えがあった。

「お前は……」

光に艶めく髪は少し赤みがかって見える。さらに、どこか相手を小馬鹿したような排他的な瞳、 その昔、『りんごほっぺ病』と言って馬鹿にしたことのあるピンク色の頬、

そう、彼女は幼馴染である松田唯であった。




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