入部 その5

夜、ベッドの上で俺はうなだれていた。

その日、いくつかの文化系部活動を見て回った筈なのだが、そのどれもほとんど覚えていなかった。 というのも唯のあの時の表情が脳裏に焼き付いて離れなかったからである。

「暇なら卓球部の見学行ってみなさいよー」

普段、唯は俺と睨み合う時絶対に退かない。きっといつまでも俺を睨み続けるだろうし、 最終的には実力行使(暴力)に訴える。それが今日はあっけなく退いたのである。 あの時の唯の顔には、一瞬、躊躇いや、戸惑いのようなものが見られた。 ひょっとしたら、俺がもう卓球をしたくないのを悟って、深く関わるのをやめたのかもしれない。 そう思った時、熱心に俺を勧誘する淳、気を使う唯、二人に対し申し訳ないという気持ちが芽生えた。

これからは二人とも疎遠になっていくのだろうか? それとも何も変わらないのだろうか?


「卓球みたいな地味なスポーツがあんたにはお似合いよ」

「おぅ、佑樹。卓球しようぜ!?」

「暇なら卓球部の見学行ってみなさいよー」


俺を取り巻く人間たちの声がベッドに寝そべる俺の脳内に何度も反芻して離れなかった。




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