入部 その8

「どこにやったんだ?」

淳が俺の入部届を出したというのは嘘だった(あいつなら本当にやりかねないが)。 それでも淳の奴に土下座までされ、先輩たちからもぜひ入って欲しいと勧められ、 最早断ることが出来ず、流れに身を任せる形で入部することになった訳だが。

渋々と入ることを決めた卓球部であるが、いざ入ってしまうとなると、 これで良かったような気もするし、むしろこれしかなかったのではないかという気さえする。

さて、それで今現在中学の頃使っていたラケットを探しているのだが、

「…………ない」

捜索は難航を極めた。いらなくなった物をなかなか捨てられず、 押入れのなかに押し込んでいたのが今更ながら仇になったらしく、 押し入れから出てくるのは昔大事にしていた物や安否不明のまま捜索を断念した思い出の品で、 逐一手を止め、「これまだあったんだなぁ」と懐かしまなければいけなかった。

ラケットの捜索活動に熱中するあまり時間を忘れていたが、すでに8時を過ぎていた。 基本的に我が佐藤家では7時に夕食をとるためすでに一時間の遅延となる。

「ふぅ……」

大きくため息をついてひとまず休戦とした。

台所に降りていくと運の良いことに俺の分のご飯は残っており、気を遣ってラップまでされていた。




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