世界の中心『青葉通り地下交差点』

ひんやり冷える青葉通り地下立体交差点。 東二番丁通りとの混雑を回避するために作られたこの地下世界には掲示板や駐輪場、 噴水にベンチ等があり無意味に広い空間を修飾していた。 そんな地下交差点に堂々君臨するのが先ほど話にあった四天王と呼ばれるホームレスたちである。 彼らは仙台の『ホームレス協議会』会長に選ばれてこの名誉か不名誉か良く解らない肩書を与えられ、 ついでに地下交差点のベンチの一角を不法に贈与された、要すれば猛者なのである。 そんなもんだから警察が来てものんびり構えて身の上話などをしながら相手方の調子を崩し、 あまつさえ一緒になって煙草に火を着けてしまう。 そして多くのホームレスたちは畏れを含めて彼らを四天王と呼ぶようになった。

その一人、『ダンボールの銀閣』と呼ばれる老人が丸酒屋のおばあちゃんの夫、いや元夫である。 離婚してこちらに移り住んだ、と言うよりは追い出されたという表現の方が正しい。 銀閣老人が煙管をプカプカやっている所に荘太と文がやって来た。 その時、四天王は銀閣老人しかいなかったので二人は真っ先に銀閣老人に接近することが出来たのであった。 壮太はおっかなびっくり老人に話しかける。

「―――おじいさん。丸酒屋のおばあちゃんを知ってますか?」

「おぅ、知っとるよ。わしらは元々夫婦じゃったからな!」

カカッと笑い皺を作る銀閣老人。冗談や皮肉を好みそうな好々爺の風情である。 少なくとも二人から見て悪人には見えなかった。

「おばあちゃんは貴方が幻のショットグラスの在処を知ってるかもって言ってたのだけれど、知らないかしら?」

すかさず文は老人に詰め寄る。彼女はさっさとこの地下世界から退場したいと思っていた。 こんな奇行を同回生に見られたら、まして『OHバンデス』 の取材に偶然出会してしまったらと思うと形容しがたい焦燥にかられるのであった。

「ん〜……幻のショットグラス?はて、酒があれば思い出すかもしれんのだがなぁ」

白々しく悩み込むふりをする銀閣老人は「最近物忘れが激しくていかんなぁ」と首を左右に振った。 対して文は怒りを禁じ得なかったが、天然でまじめな荘太は、あっ、 と気付いたように腕に抱えていたボストンクラブを差し出した。

「これ、丸酒屋のおばあちゃんからです!」




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