竹取堂と云ふ店ありけり
「―――幻のショットグラスじゃがな、仙台駅の駅裏に『スガワラ商店』っちゅう雑貨屋があるんじゃが、 その向かいに『竹取堂』っちゅう質屋がある。そこの主人ならあるいは何か知っているかもしれん……」
「竹取堂?聞いたことないわね。壮太、あんた何か知ってる?」
「ううん、知らない」
竹取堂と初めて耳にした文は酔狂で壮太に訊ねてみたが、訊ねて後悔した。 もう二度と訊いてたまるか、文はそう強く決意する。
「知らんのも無理はない。竹取堂は周囲の建物に囲まれておるからな」
銀閣老人は詳しい竹取堂の位置と、その店が表向きは普通の質屋を営んでいるが裏では 秘密裏に仕入れた珍品の類を高額な値段で売買するオークションを行っていることも説明する。
「そこにショットグラスがあったとして、凄く高かったらどうしようね?」
「そうね……代金は先生に請求すべきね」
珍しく鋭い指摘をする壮太に文は驚きを禁じ得なかった。
「まぁ、行ってみないとわからないけどね」
そうやって二人で作戦会議を開いていると銀閣老人が見送りの声をかけてきた。
「くれぐれも気をつけるんじゃぞ。何かあったらいつでもここに来なさい」
出来る限り来たくない、と言うかもう絶対来てたまるかと思う文であった。