兄弟は見た

正午を大幅に過ぎてからボウリングトリオこと落合・萩野そして包屋は食事を終えて地上に這い出てきた。 そもそも食事を始めた時間が正午過ぎであったので当然と言えば当然の話である。

三人がフラフラとあてもなくアーケード街をさ迷っていると、どこか物々しさを感じるのである。 その物々しさの発信源はちょうどダイエーの裏手口辺りであった。 人だかりが出来ていてコンサートでも行われているのだろうか、と三人は興味本意で近づいてみた。

「何かあったのですか?」

三人の中で唯一社会人デビューを果たしている落合はやはり三人の中で一番社交的であった。 買い物袋を下げた手頃な中年女性に声をかける。

「痴漢で誘拐らしいわよ!」

落合に声をかけられた中年女性は「嗚呼、恐ろしい!」 と十中八九襲われる心配の無さそうな自分の心配をしているように思われた。

「物騒な話だな……」

「痴漢から誘拐とは順序が逆じゃないか?犯人は何を考えているんだ!?」

「論点が完全にズレてるぞ、萩野」

三人はそんな訳の分からない会話をしつつ、野次馬の中央にいる警察官と被害者であろう少女を覗き見た。

「―――あ、ありゃさっきのアイスクリームの餓鬼じゃないかッ!?」

包屋が仰天する。なんと被害者の少女とは先刻の、『いかにも頭の悪そうな女の子』だったのである。 一瞬包屋の脳裏を過ったのは「もしかして犯人は自分なのではないか」という突拍子もない幻想であった。

「それにしては犯人の姿が見えないな……」

「もう連行されているに違いない」

しばし状況を眺める内に萩野はある懸念をした。

「今回の犯人なんだが、ひょっとしてクロベエじゃないよな?」

何故萩野がこのような懸念を抱いたのか。それはクロベエの女性癖にある。 彼の変態紳士同盟における二つ名は『広角守備範囲』と書いてロングレンジバレルと読む。 名前からも解る通り彼の女性に対する許容範囲は広い。 実に十歳から三十七歳までの女性を彼は恋愛の対象として見ることが出来るのである。 さらに噂によれば十歳から三十七歳までというのは目安に過ぎず 実際のところは年齢にこだわり過ぎて美しい女性を掴む好機を逃してはならない、 というのがクロベエのモットーでもあった。

「まさかな……」

落合は笑ったが、しばらく萩野がだんまりしているのを見ているうちにどんどんそれが事実なのではないかと思い始めた。 ちなみに変態紳士同盟には『一点狙い』と書きプロハンターと呼ばれる、 年端もいかぬ少女しか狙わないロリコンど畜生野郎も在籍していたのであるが、 彼は仕事で仙台を離れている為萩野の推理からは外れていた。

「近場なら東二番丁通りの交番だぞ」

仕事柄仙台の街を網羅していた落合は直ぐに近場の交番を割り出す。 東二番丁交番は青葉通り交差点で青葉通りと交差する東二番丁通りの角に存在する、 三人の現在地からは目と鼻の先に位置する交番である。


「兎にも角にも行ってみるしかないだろ!」

気の早い包屋が先に突っ走り、後に二人が続いた。




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