それでも彼はやってない

「それでも僕はやってない!!」

シャレ乙男がその自らに降りかかった冤罪を打ち砕き、東二番丁交番を後にする頃には仙台の街を夕闇が支配し始めていた。

「不味い、もう七時になってしまう……」

ガガミラノの腕時計に目をやり、焦りを露にするシャレ乙男。早ければ先の少年たちは幻のショットグラスを手にしているかもしれない。 急ぎ駅裏へ向かおうとする男だったがその眼前に、お世辞にも爽やかとは言えない三人の青年が立ちはだかった。

そう、彼らこそボウリング三兄弟である。彼らはクロベエを待ち伏せてこの東二番丁交番に張り込んでいたのである。

「あっれ〜、クロベエじゃねぇ……むむ、ひょっとしてあなたはサカイ氏では?」

包屋が一歩踏み出し男の顔を覗き込む。当の本人、シャレ乙男はびっくりしてハットとサングラスをとり三人をまじまじと見る。

「うむ、いかにも、俺はサカイ氏であるが……君らはもしかして黒鳥氏の友達で合っていたかい?」

サカイ氏、彼はクロベエの専門学生時代の学友にして飲み仲間でもあった。ちなみに彼はスコッチ独特の泥のような風味を嫌い、 専らバーボンを好んでいた。ショットグラスを探す理由もクロベエと酒を飲み交わす為に用意しようと思っていたからであり、 勿論冒頭での電話の相手もクロベエであった。

「―――サカイ氏は一体交番で何を?」

萩野が問いただす。自分の推理が『ハズれているのであれば』サカイ氏が痴漢・誘拐の犯人である可能性が高い。

「うーむ……いや、アーケード街で泣きわめく女の子がいましてな、 事情を聞けば極悪外道青年にアイスクリームを取り上げられたと言うじゃないか。 まったく……酷い青年もいたものだ。それで、代わりのアイスクリームを買ってやろうとしたらこの有り様だよ……」

「違う!あいつが勝手にアイスを投げつけて来たんだよ!」

サカイ氏の説明に包屋は酷く憤った。そして墓穴を掘る。

「ん?あいつ?……何の話かな?」

「い、あ……え〜と……いやまったく、けしからん青年だな……いやまっやく」

必死で誤魔化す包屋であった。自分がその青年だとは地獄の釜が開いても言えない。それにかけて落合と萩野も便乗する。

「本当に下種野郎だな?」

「そんな奴はこの世界にはいらないな?」

「お前ら……後で見てろよ!」

そんな三人から視線を外し、ふと時計を見てサカイ氏はショットグラスのことを思い出す。

「む……いかん、時間がないな」

サカイ氏はタクシーを拾いすぐさま乗り込む。

「おや、サカイ氏、どちらへ?」

「駅裏だ、幻のショットグラスが俺を待っている」

「幻のショットグラス!?なんだか良く知らないが面白そうだ。俺たちも連れていってくれ!」

包屋がタクシーのドアを開け交渉する。落合・萩野も包屋に倣う。

「面白いところにならクロベエもいるかもしれないしな」

「それに、割勘で乗った方が安いぜ?」

「……うむ、早く乗りたまえ!」

問答している時間はないと判断し三人を乗せるサカイ氏。こうして四人になった一行は駅裏へ赴こくことにした。




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