新米巡査・平野の事件簿 パート3

「―――あのなぁ平野……」

「……はい」

「誰でも彼でもとっ捕まえりゃそいつが犯人って訳じゃないんだぜ?」

「……はい」

シャレ乙男、サカイ氏が解放されたのもこの温和な平野巡査の上官あってこそである。

「まぁ向こうもあんまし怒ってないみたいだしさ、俺も上に書類書きたくねえからこのこたぁ黙っとくけどよ……」

「……はい」

「まぁ、なんだ、今度一杯おごれや……それでチャラだ」

「……はい」

新米巡査・平野の輝かしい未来は少々遠ざかったかに思えた。大きい体を幾分か小さくして 平野巡査はしょんぼりしていた。

「また、やってしまった……」

頭を冷やそうと再び外で見張りを始めるがどうにも身が入らない。時折彼はこうして自己を顧みて 自己嫌悪のようなものに陥る。

空を流れる雲をぼんやり眺めてうなだれる平野であったが、 ふと地上に目をやると今度は『仙台銀座』の方に何やら暗雲立ち込めているような、 そんな風情があった。野次馬が人垣を作り、どうも酒屋の前を取り囲んでいるらしかった。

「……これは事件に相違ないッ!!直ぐ様急行し現場を維持、及び捜査しなくては!!」

そうしてまた、新米巡査・平野の見切り発車感満載のトラックレースが始まったのである。




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