導かれた者たち

ボウリング三兄弟とサカイ氏の四人がタクシーを降りたのは1メーターも乗らぬうちであった。 青葉通り交差点を無理やりUターンし、駅裏へ一番の近道へ赴こうと 躍起になっていたタクシードライバーの出鼻を見事にへし折ったことになる訳だが、 四人がタクシーを降りたのには相応の理由があった。

「これは一体全体どういうこっちゃ!?」

仙台銀座の入り口付近にて、タクシーを止めた四人、包屋は仰天し口をあんぐりと開け、 落合は包屋の口が開いている間に素早く情報を集める。

「―――どうやらこの『黒肴』という飲み屋で凄い飲み競べをやっているらしい」

「飲み競べ?」

「それも巷じゃ有名な『ホームレス四天王』の『七福仁』 っていう貰えるものなら椅子でも机でも何でも平らげるっつう怪人と若い女の飲み競べらしいぞ」

「そりゃあ確かに面白そうではあるがショットグラスとは関係ないんじゃないか?」

サカイ氏も興味は持つものの現在最優先にすべきはショットグラスである。

「待て、少し中を覗いてみよう。もしかしたらそのショットグラスに関係あるかもしれない……」

萩野の直感は説得力があった。それを裏付けるものは一切ないのだが他の三人は妙に納得してしまう。

四人は人混みをかき分け『黒肴』の店前まで進む。飲み競べは店の入口で行われていた。

小さなテーブルが置かれその上にごくごく平凡そうなクリスタルグラスが置かれており、 どうやらそれで交互に飲み競べているように思われた。

「―――あの少女は……!?」

サカイ氏の目に入ったのは地下交差点で見掛けた少年の連れ合いであった筈。 だとすれば、この飲み競べ、幻のショットグラスが一枚噛んでいるとみて良いのか。 それにしても片割れである気の弱そうな少年の姿が見当たらない。

「十七杯目!」

先攻であろう少女は酒の注がれたショットグラスを一気に傾け飲み干す。 干しはするがグラスをテーブルに戻す手は覚束無く、顔面は最早青白く、 明らかに酩酊しているのが見てとれた。はたまた後攻のでぶでぶと肥え太った老人は注がれた酒をゆっくり舐める。 舌で転がし、あまつさえ酒の名前を当てたりしながら闘いを楽しむ風さえある。

「これ、『ハーパー』の12年かい?」

「はずれ。あんたのバカ舌にゃ、頭が下がる……」

審判と思われる割烹着姿の中年男性はケケケと不気味極まりない笑みを浮かべ店の奥から 代わる代わる次の酒を持ってくる。

「二十杯目!」

四人から見ても少女の敗北は明白であった。このまま飲み競べを続けては危険である。 そう判断し正義感の人一倍強い包屋は止めに入ろうと身を乗り出した。

さらには何処からともなく正義感が人一倍強そうな筋骨隆々の、『現代版武蔵坊弁慶』のような警官、 つまりは平野巡査までもが人ごみを割って勝負を止めようとした。 しかし二人は人垣の最前列に立っていて長半天を背にした男に遮られる。男は前を向いたまま後ろ向きに口を開いた。

「―――まぁ、待ちたまえ」

後ろ姿ではあったがボウリング三兄弟とサカイ氏はその背中に確かな見覚えと懐かしさを感じた。

「「「「―――お、お前は……ッ!!?」」」」

次の瞬間、二十杯目の盃を飲み干した少女がそのまま地面に崩れ落ちた。




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