エンディング その2

「―――行っちまった……」

包屋のつぶやきを皮切りに冷凍食品が解凍される様に観衆たちは騒がしさを取り戻していった。

「おやッ!!? 七福仁が居ないぞ!」

観衆の一人が老人の不在に気付き、声を上げる。 卓上にはまだ中身が残ったままのグラスが鎮座ましましていた。

「ん……? と言うことは……」

「二〇対十九でさっきの少女の勝ちじゃないか?」

観衆たちは状況を飲み込むと、ざわつき始め審判である黒肴の店主『藁しべ長者』の判決を待った。 当の本人は落ち着き払って口を開く。

「ふむ……勝負は、どうやらあの娘の勝ちだな……そこのいかにも不毛そうなお兄さん方、 さっきの連中の知り合いだろう? 悪いがショットグラスを届けてくれないか?」

店主が指差したのは勿論ボウリング三人組とサカイ氏のことである。

「いや、それは構いませんが……一体いつ会えるか、こちらも皆目見当もつかない状態でして……」

サカイ氏はそう言って今まで探していた幻のショットグラスの姿を確認する。

「地球は丸い、その内転がるように会えるじゃろうて……」

店主は最後に自らショットグラスに残った黄金色の液体を飲み干して四人に押し付けるのであった。

「―――いつかうちに飲みに来なさい」

そうして『藁しべ長者』もまた舞台から退場していった。やがて観衆たちも散り散りになり、 通りには四人だけが取り残された。

「そして誰も居なくなった……ってか。どうです、サカイ氏。 折角の再会ですし予定がないなら四人でこのまま飲みませんか?」

萩野が『黒肴』を指して提案する。

「それが良い。是非とも飲みましょうぜ?」

落合も促した。

「クロベエの悪口でも肴にするかな……」

既に包屋は飲む気満々であった。

「うむ! 是非そうしよう!」

サカイ氏もおおいに賛同し早速四人は黒肴の戸を開き意気揚々中に入って行くのであった。



藁しべ長者が「おや、早速かい」とニンマリする凡そ十秒前の話ある。


おしまい



もくじへ移動/ あとがきへ

TOPに戻る