少年は主役を降板する

勢い良く啖呵を切って先生の下宿を飛び出してきた荘太であったが早速難題に突き当たった。

「―――その幻のショットグラスってどこで売ってるんだろうか?」

どうかこの愚かな青年を責めないでやって貰いたい。 彼はつい先日成人となったばかりで知っている酒といえばスーパーやコンビニに置いてあるビールや酎ハイ、 テレビのCMで視た『いいちこ』、『二階堂』、『トリス』にそれに『角』くらいであったし、 どちらかといえば一時期『サントリー』のCMを務めていた『小雪さん』の方が彼の脳裏には強く残っていることだろう。

そんな荘太は成人式の同窓会でも、 「コーラで良いや」の一点張りで急性アルコール中毒で倒れていく同期を尻目にゴクゴクとコーラを飲み干し、 ゲップまでかましていた訳であるから酒の知識が皆無だと言うのも無理からぬ話である。 もっと言えばショットグラスがどういう形状をしているかを彼は知らなかった。

「……って言うかショットグラスって何だろう!?」

ショットグラスとは主にであるがウイスキーやリキュールをストレートで飲む為の小さなグラスであり、 その用途から西洋版のお猪口と言っても過言ではない、と作者は信じている。

「成程!とりあえず文に連絡だ」

琴羽野文と常磐壮太いう人物関係について少し説明を入れると彼女本人も先生を師とする壮太の妹弟子にあたる存在であった。 何故文のような理知的な女性が先生のような怪人の弟子であるかには相応の事情というものがあったが、 この物語の都合上、その話は割愛したい。文は妹弟子ではあるものの、賢さや要領の良さで荘太を圧倒しており、 いつも突っ走る荘太をカバーする役目を暗に担っている。荘太は早速携帯を取り出して文に電話を入れる。

「……荘太!?あんた今どこ?」

一コール目でで電話出るなり文はぶっきらぼうに居場所を問いただす。

「い、五橋公園……」

受話器の向こうで文は溜め息を漏らした。

「良いこと、そこでジッ、としてなさい……分かった!?」

「……はい」

妹と言うよりは姉、姉と言うよりはお母さん、もしくは保護者である。 電話を切られ携帯電話をポケットにしまい込み、壮太は大きく溜め息をついた。


「また、やっちゃった……のかなぁ」

かくして彼の活躍は早くも幕を閉じるのである。




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