ボウリング三兄弟
「―――――そうか……分かった、またな」
携帯をしまい込んで青年は立ち上った。『彼ら』は現在ボウリング場にいる。
「萩野、誰だった?」
電話をしていたのは『萩野』と呼ばれる髪の長い知的な青年である。萩野は自分のボウルを手にとり呟くように言った。
「『クロベエ』だった」
そして彼は同時に助走をとってボウルを放る。放たれたボウルはコースに滑らかな曲線を描き、 ギリギリ左のガーターに落ちない所で回転を維持しつつしばらく滑りやがて回転の影響で右斜め前に進行方向を変え、 丁度一番ピンの付近で直撃する。勢い良く弾き出されたピンたちは漏れなく撃沈された。
「萩野ナーイス!!」
投球から戻る萩野と手を叩いたのは『落合』、某宅配会社に勤務する好青年である。
「よっ、さすが大将!『近親相姦(フレンドリィ・ファイア)』の名は伊達じゃぁないぜッ!!」
こちらの機嫌良さげに意味不明な罵倒をするのは『包屋』、漫画家を志望するフリーターである。 落合・萩野・包屋、この三人はボウリング推進委員会のごときハマりっぷりで休日平日共にピンを倒しまくることに何やら 『幸福』を見出している風情があった。
「それは関係ないだろうがっ!」
それまでのクールな面持ちを崩し、萩野ははにかむ。意味不明な汚名については敢えて否定しないらしい。
「―――ってか、クロベエのやつ生きてたのか……『震災』以来全く連絡なかったからな」
包屋は感慨深気に述べる。彼にはクロベエと呼ばれる人物と長い付き合いがあったかに見えた。
「そんなら今度はクロベエも呼んでボウリングだな!」
ボウリング三兄弟のリーダー格、落合はガッシリとグーの手を作る。 最早ボウリングの為に生きていると言っても過言ではない。萩野は提案をした。
「―――となるとボウリング三兄弟も改名が必要だな」
「『クワトロボウラーズ』ってのはどうだい?」
包屋は鼻息をフンと鳴らして二人の反応を待った。
「いいや、この際萩野の妹である『葉月ちゃん』にも参加頂いて、『ボウリングファイブ』に……」
「ダメ。絶対」
落合の軽薄な提案に萩野は顔色声色共に変えて断固反対した。
「わ、悪かったよ……葉月ちゃんはお前のお嫁さんだったもんな……」
「いや、違うから」
「―――おおっと、お二人さん、準備出来たぜ!」
萩野と落合のやり取りを脇で傍観していた包屋であったが、それを一旦中断させ、レーンに注目させる。 そこには新たにピンが補充されており、三人は再びボウリングに興じ直すのであった。