新米巡査・平野の事件簿 パート1

国民を守り、その財産を守り、そしてその税金も懐に入れて守り通す。 ゆくゆくは『東二番町通りの交番に平野あり』と言われるようになりたい新米巡査、 平野は筋骨隆々としており、まるで『現代版武蔵坊弁慶』のような見事なまでの逆三角形体型を持て余すように、 交番の前に直立していた。彼は新米ということもあり、市民を守る『正義』そのものになりたい、 などと淡い幻想のような固定概念に縛られていた。しかし、最近左右の眉毛が繋がりそうなのが彼の悩みであった。 彼は、それを隠すように、警官帽を深々と被り、常時上目遣いで、仙台のビルとつばの合間に見える水色を凝視していた。

傍から見ればただのがたいの良い青年である為、街行く市民たちは気軽に挨拶を交わすどころか、 彼の前を通り過ぎる時のみ小さくコソコソとなった。それでも彼は心優しい好青年であり続けた。

そんな彼の眼は、通りの向こう側に甚平を着込んだ怪人を捉えた。仙台七夕も近い葉月の初めだというのに、 その男はヒートテック上下、その上に厚手の甚平、そして長半天を着込んでいると見え、 何よりも光彩を失った瞳が半ば眠たげに仙台の街を捉えていた。平野の目には余程の寒がりか、 何やら良からぬことを企む輩に映った訳で、彼は、「これは捨ておけん、あ奴めは間違いなく悪人の類に違いない」 と判断し、上司に「行ってきます」と告げ、甚平の男の跡をすぐに追うのであった。あとに残された平野の上官は、

「夕方までには帰ってこいよ〜」とのんびり構えてお茶をすするのであった。




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